日本BGMフィルに見た夢(9)
■華龍進軍
コーエーの歴史シミュレーションシリーズは歴史ファンからシミュレーションゲーム好きまで幅広く愛されているシリーズだ。
三國志シリーズは登場から30年を迎え、ナンバリングタイトルは12を数えるコーエイ作品を代表するような作品と言えるだろう。
代を重ねるごとに練り込まれたゲーム内容はもちろんのこと、楽曲の評価も高い。ゲーム音楽ファンからも大きな支持を受けているが、なかなかオーケストラ演奏の機会も少ないため、今回の演奏を楽しみにしていた人も多いだろう。
曲間のMCでも説明されたように、この曲はゲーム内で蜀の国に攻め込む際に流れる音楽である。
蜀の国はまさに三国志の由来になった三国鼎立時代の一角を占めた国とはいえ、劉備玄徳一代で起こした歴史の浅い国であり、関羽雲長や諸葛亮孔明といった現代でもよく知られた英雄・豪傑を擁しながらも他の魏国、呉国に比較すれば圧倒的に国力が小さかったという。
BGMフィルもまた日本初のゲーム音楽を演奏するプロの管弦楽団という触れ込みで立ち上がり、優れたプロフェッショナルの演奏者を集めた楽団ではあるものの、この時点では結成以来まだ1年ほどしか経過していない若い団体である。
日本は世界的に見ても非常に音楽家の層が厚く、交響楽団の数も多いと言われているのだ。
プロとして旗挙げた以上、立ちはだかるのはもはや自らの音楽だけではないことを肌で感じていただろう。
戦わなくてはならないのが自分自身だけではなくなるということだ。
襲いかかる有形無形の様々な理不尽に抗わなくてはならない時もあるだろう。
BGMフィルの演奏家達はもちろんのこと、指揮者であるとともに音楽監督であり、また代表理事の一人でもある市原雄亮氏の両肩にかかる重責は並大抵のものではなかったに違いない。
強大な敵国を相手に手を携えて立ち向かった英雄達の姿に、BGMフィルと自分自身を重ねたこともあっただろう。
「華龍進軍」は小国が巨大な存在に立ち向かう悲壮感を感じさせる曲だ。
彼らの弦が管が空気を震わせるたびに私達の心に響く。
勇壮の中に見え隠れする悲哀。
奮い立つ心、胸を惑わす不安。
絶望の中にあっても前に進む強い決意。