日本BGMフィルに見た夢(10)
■特別な輝き
会場に配られたプログラムを見て思わず口にした人もいるかもしれない。
演奏会にさかのぼること数カ月前、BGMフィルはアレンジコンテストの告知を出していた。
なかなか面白いことをするなあと興味深くサイトを眺めていたら、題材を見て2度驚いた。
ひいき目に見て誰もが知る作品ではない。
もちろんファミコン時代からの熱心なゲームファンならプレイしたことがあるかもしれないし、ゲーム雑誌やお店で目にした人もいるだろう。
少なくともゲームに興味がある人ならタイトルくらいは聞いたことがあるだろうという作品が続いていた。
ファザナドゥとはいったいどんなゲームなのだろうか。
その頃はファミコンがまさに全盛期を迎えていた時代であり、この年には『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』、『デジタルデビル物語 女神転生』などの誰もが知る作品が次々に発売されている。
この年を含む前後数年間は現在でもシリーズの続く名作が数多く生まれており、名実ともにファミコンの黄金時代と考える方々も多いのではないだろうか。
『ファザナドゥ』はそんな時代の中で発売されたソフトのひとつだ。
日本ファルコムは歴代の自社作品の音楽をサウンドトラックなどの豊富な音源で取り揃える他、自ら権利を持つ作品に関してオープンな姿勢を取っている。
長年の経験からゲーム自体を知り尽くしているだけではなく、ゲーム音楽の重要さを認識している現れといえるだろう。
家庭用ゲーム機の能力が飛躍的に向上した現代とは違い、比較にならないほどの性能差がある、当時のゲーム好きなら誰しも憧れるような夢のマシンだったのだ。
そのような圧倒的な差を乗り越えて登場した『ファザナドゥ』が元の姿とかけ離れた形で世に送り出されたことは、ある意味仕方ないことだったのだろう。
しかしながら結果として『ファザナドゥ』は厳しい評価を受けることになった。
世に生を受けたゲームの全てが祝福されるとは限らない。
ゲームはその誕生の過程において多くの制約、数え切れないしがらみ、多種多様な事情の交錯する中で生まれてくる。
その結果、望ましい形になることができず、万人の支持を得ることはもちろんのこと、さしたる評価を受けることもなく、ひっそりとゲームの歴史の片隅に消えていく作品は少なくない。
いや、そのような作品で歴史の河は満たされているとさえ言えるだろう。
万人に愛され、輝きに満ちて時を越えることができる存在には誰もがなることはできないのだ。
そう。
なることができるのは自分自身だけなのだ。
そしてそれぞれのゲームは有名無名・人気不人気を問わず、ひとつひとつが特別な輝きを持っている。
発売当時は見向きをされなくても時を経て評価される作品もあれば、セールスは振るわずとも一部のファンから熱狂的に支持されている作品もある。
『ファザナドゥ』もそういう作品のひとつなのかもしれない。
BGMフィルは超有名作品や人気作品だけではなく、隠れた名作に光を当てて輝かせる。
彼らの持つ大きな強みのひとつと言えるだろう。
作曲は竹間ジュン氏。
現在はその役割を終えてゲームの世界から去ったが、世に出た数多くのゲームは今でも様々な形でプレイされている。
この巧みな起用からも市原氏の達見と曲選びの妙を感じることができるだろう。
『ファザナドゥ』はJBPアレンジコンテスト2013の課題作品だった。
アレンジコンテストという試みは音楽界を広く見渡してもユニークで珍しいと言えるのではないだろうか。
JBPアレンジコンテストは課題のゲームをオーケストラアレンジした作品を広く募集し、特に優れた作品を表彰のうえ、日本BGMフィルハーモニー管弦楽団が実演、レパートリーとする事で、演奏を継続していく事を目的としたもの、とアナウンスされている。
『ファザナドゥ』の楽曲を作曲した竹間ジュン氏を審査委員長に迎え、音楽監督の市原氏をはじめとする審査員から見事に大賞に選ばれたのがYukimura Nishimoto氏だった。
数多くの作編曲、楽曲製作を手がける音楽家であり、特にゲームやアニメの音楽の管弦楽・室内楽編曲を得意としているとプロフィールにある。
審査委員長の竹間ジュン氏も
"「十分に個性的で、ボリュームにも意気込みを感じる。ステージ映えするメリハリに期待大。組曲にして各曲をたっぷり取り上げたのも効果が大きい。これならばコンサートの成功に大きく貢献するでしょう。」"
と賞賛のコメントを寄せている。
今回の第一回公演にもYukimura Nishimoto氏の他に江口貴勅氏、大谷智哉氏、荻原和音氏、島岡りを氏、羽田二十八氏、R.ミカメコフ氏といった多くの音楽家が編曲として参加している。
アレンジコンテストのような形で、ゲーム音楽のアレンジメントを広く市井に求める姿勢はBGMフィルの持つ特徴のひとつが現れている。
楽団の名前も公募にて選ばれていることからもわかるように、自分たちの力だけを拠り所とするのではなく、理想の音楽のためにはファンや企業、一般の人にまで門戸を開くというオープンな姿勢だ。
それこそがBGMフィルに風通しの良さを感じる一因だったのかもしれない。
ドラゴンクエストの「序曲」から始まり
「グランディアのテーマ」
「The World Adventure」
メインテーマ「Wonder World」
「パズル&ドラゴンズメドレー」
「華龍進軍」
バリエーションに富んだ選曲と素晴らしい演奏。
聴衆は心から満足するとともに、期待は高まるばかりだ。
第二部はもはやゲームファンには説明不要の名作・名曲が続く。
これを聴きに来たのだ…!と心待ちにしている観客も多いだろう。
果たしてBGMフィルは聴衆がそれぞれに寄せる想いを越えるような演奏を見せることができるだろうか。
時は2013年10月11日。
第二部の幕が開く。