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中条優希オフィシャル

日本BGMフィルに見た夢(5)

■実現


"このオーケストラについて、「本当に実現できるのかな?」と思ってらっしゃる方も多いと思うんです。ですが、私たちは本気で活動をしているので、どうか期待して、応援していただければと思います。実現した暁には、生でしか味わえない感動をかならずご提供しますので、ぜひ演奏会に足を運んでください。"

 

日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の音楽監督であり指揮者である市原雄亮氏は、2012年8月1日にファミ通ドットコムで掲載されたインタビューでこのように答えている。

この時はまだBGMフィルが本格的に動き始めたばかりで、演奏者がいない状態だった。

そんな中で市原氏はゲームや音楽への想いや新しく作られるオーケストラの構想をインタビュアーに語っている。

2013年の演奏会開催を目指す、と宣言したそのインタビューから約1年と2か月。

日本BGMフィルハーモニー管弦楽団は旗揚げ公演の日を迎えようとしていた。

 

全6回で行われたアンサンブルコンサートは盛況で終了した。

ゲームや音楽を専門とするメディア以外にも取り上げられ、その実力はゲーム音楽好きの間にとどまらず、広く知られることとなっていた。

公演に訪れた人達がそれぞれにゲーム音楽やBGMフィルへの思いを語っていることを様々な場所で目にすることができた。

Twitterなどに公演を訪れた興奮や感動を書き込む人、ブログに詳細なレポートや厳しい指摘を載せる人、各SNSを通じて指揮者や演奏者に喜びやねぎらい、感謝などの声を届ける人、公式サイトに熱い意見や感想を送り、心の中で大切にしているゲーム音楽を強い想いでリクエストを送った人もいただろう。

直接文章や言葉にしなくても、訪れた人それぞれに感じることがあっただろう。

皆、ゲームや音楽が好きだからその場所を訪れたのだと思う。

 

BGMフィルはそういったゲームや音楽を愛する人達を主軸に置いていた。

私はそう考えている。

団体名を公募したことや旗揚げ当初から演奏するゲーム音楽のリクエストを募集していたのも、そういったファンを中心に据える姿勢から来ていたのだと思う。

また、早期から基金を広く求め、Club JBPという会員制度を作ったことも、ファンや支持者の力に期待していたことがわかる。

クラシックの世界ではオーケストラを国や企業が支援することが多い。

しかしながら、民間の人々の支援によって支えられているケースも少なくない。

特に海外では民間の寄付や支援がオーケストラを運営する大きな力になっている。

無論、国や企業の支援はある。クラシック音楽の本場である欧州では国や自治体が全面的にバックアップすることが多いという。

だが、国や自治体が支援することを了承するのもやはり民間の人々であることも忘れてはならない。あくまで「オーケストラは自分たちにとって必要である」という民意によってなされているのだ。

自分たちが楽しむために自分たちが支えるという文化が根付いているのだろう。

文化を守り育てるのは我々自身である、という姿勢は本当に素晴らしいと思う。

BGMフィルもまたゲーム音楽という文化を自分たちだけではなく、みんなで育てて行きたいと考えていたのだろう。

その思いはどこから来ていたのか。

きっとそれは自らがゲームが好きで音楽を愛しているからだろう。

だからこそ共感し、応援し、様々な形で支援をする多くの人達がいたのだと思う。

ただゲームが好きだから、演奏が良いから、というだけでは人は動かない。

その気持ちに触れた時に、初めて人は行動するのだ。

 

2013年10月11日。

 

かつしかシンフォニーヒルズには金曜日の夜という日程にも関わらず、多くの観客が訪れていた。

皆、ゲームと音楽にそれぞれの想いを持った人達なのだろう。

お気に入りの曲を心待ちにする人もいただろう。

心に秘めた大事な作品の曲が演奏されるのを、期待と不安の中で待つ人もいただろう。

立ち上げ以来BGMフィルを応援してきた人や、特定の演奏者のファンもいただろう。

お手並み拝見、と様子を見に来た同業者や関係者もいただろう。

恋人や友人に誘われてよくわからないまま来た人だっていただろう。

物珍しく見物に来た人だっていただろう。

本当に色々な人がいただろう。

 

それでも、入り口をくぐり、ロビーを歩き、座席についたなら、皆同じくその瞬間を目にすることになる。

 

日本で初めて立ち上がったゲーム音楽を演奏するプロのオーケストラが音を響かせるその瞬間を。