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中条優希オフィシャル

日本BGMフィルに見た夢(4)

■日本BGMフィルの成り立ち

  これまで3回の記事で日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の名前を耳にしてから最初のアンサンブルコンサートを訪れるまで思い出しながら、その中で感じたBGMフィルの印象、彼らの中に見た勝算や思いを記してきた

 

日本BGMフィルに見た夢(1)

http://yukilog.hatenablog.com/entry/2014/04/15/080445

 

日本BGMフィルに見た夢(2) 

http://yukilog.hatenablog.com/entry/2014/04/18/080448

 

日本BGMフィルに見た夢(3) 

http://yukilog.hatenablog.com/entry/2014/04/21/231432

 

ここでもう一度、BGMフィルが発足してから最初のコンサートを行うまでの歩みを振り返ってみようと思う。

 

日本初のプロのゲーム音楽オーケストラ団体発足のニュースが流れたのは2012年の5月のことだった。 

当時はまだ「ゲーム音楽プロオーケストラ立ち上げ準備委員会」という仮の名称での立ち上げとなっている。

オーケストラの正式な名称はなんと一般から公募するという。 

奏者もいない、名前さえ無いオーケストラとしてのスタートだったのだ。 

この時点で「ゲーム音楽を演奏するプロオーケストラ」を強く打ち出していることが興味深い。

また、ファンや外部に門戸を開いて協賛を求めるという特徴のひとつが現れていた。 

そしてほどなく6月には一般公募による正式な名称が決定する

  

日本BGMフィルハーモニー管弦楽団設立されたのは2012年7月27日

 

国内初となるゲーム音楽を主体に演奏活動を行うプロオーケストラとして誕生する。

代表理事には遠藤雅伸氏、古代祐三氏というゲーム界の偉人とも言うべき両氏が就任している。 

音楽総監督には設立者であり理事でもある指揮者、市原雄亮氏がその任を務める。

 

8月にはCEDEC AWARDS 2012でのBGMフィル初となる演奏が行われたものの、この時点ではまだコンサートマスターや団員は決定していない。 

母体となる管弦楽団や団体を持たずに発足するプロオーケストラは珍しい。 

オーケストラという団体の性質上、プロフェッショナルの演奏者を多く抱える必要があることが大きな理由のひとつだろう。 

2013年の公演を目指すBGMフィルにとって楽団員を集めることは最初に迎えた大きな試練となったことは想像に難くない 

9月にコンサートミストレスが決定し11月楽団員のオーディションが行われている。 

ひとつのオーケストラを作るためには50人から70人という多くの人数が必要でありそのためのオーディションを実施するだけでも並大抵のことでは無かっただろう 

しかも日本BGMフィルはゲーム音楽を主体とする団体であるため従来のクラシック音楽を演奏するオーケストラとはまた違ったメソッドを必要としたように思えた。

数百人におよぶ応募者の実技と面接という膨大なオーディションに審査員として立ち会った市原雄亮氏の採用についての記述が興味深い。

 

"正直な話、今回のオーディションを開催するにあたり、ゲームに理解、愛情があり、かつ力のある奏者というものが、世の中にどれだけいるのか、そして集まってくるのか不安がありました。

 

前述しましたが、今回は実力だけでも、ゲーム音楽への情熱だけでも合格とはしていません。ゲーム音楽の演奏自体は重要ではなく、ただプロオーケストラの奏者というポジションにつきたいという動機の人が来るなら、合格にはしない前提でオーディションを開催しました。そのせいで奏者が全然決まらなくても仕方がないとすら思っていました。

 

それは、蓋を開けてみれば杞憂に終わったわけです。

 

 

 

――こんな楽団が出来るのを心待ちにしていた。

 

――今こそ自分の出番だと思った。

 

――自分がここに入らずにどうするんだ。

 

そんな熱い想いを持った音楽家が集まってくれたのでした。"

 

 

 

市原雄亮氏の公式ブログより

 

代表理事の遠藤雅伸氏もまた自らのブログに「「ゲーム」に想いの深い、腕のある人をしっかり選べるというのは幸せだね」と書いている。

確かな技術とゲームへの想い。

彼らがまだ見ぬ管弦楽団の姿をはっきりと描いていることがうかがえる。 

そして翌年2013年1月28日に楽団員の決定が発表される

 

■その旗のもとに 

   BGMフィルの成り立ちを見ていると、市原雄亮氏達が掲げた旗の元に少しずつ協力者が集まり、コンサートミストレスが決まり、団員が集まり、合唱団が立ち上がり、という形で徐々に育っている。 

最初は一人だったところに一人、また一人とメンバーが集う姿を見て、ドラゴンクエストなどのロールプレイングゲーム思い浮かべる人も多いだろう。

また、最初はCEDECでの演奏から始まり少人数によるアンサンブルコンサートそしてフルオーケストラによる公演へと段々とスケールアップしていく様も戦略的であり理にかなっているように思え 

RPGに限らずコンピューターゲーム多くが初期段階ではプレーヤーができることが限定されていることが多い。 

その状態から徐々にキャラクターのレベルを上げたり、仲間を増やしていく、またプレーヤー自身が錬度を上げていくにつれ、プレイの自由度が増していき、できること、体験できることが多くなっていく。 

作中の世界もより高い次元へより広い空間へと進んでいき、より深くゲームを楽しむことができるようになっていく。 

BGMフィルもまた、名前さえも持たない小さな存在から始まり、その旗のもとに集う仲間たちと数々の試練を乗り越え、今まさにフルオーケストラと合唱団という華麗な陣容で次の大舞台を迎えようとしている。 

まるで管弦楽団自らがゲームの世界を体現するかのような成り立ちは、彼らにふさわしい姿であるように見えた。 

そして日本BGMフィルハーモニー管弦楽団は2013年10月11日に旗揚げ公演を迎える 

"BGMを表舞台へ。

バックグラウンドではなく主役の音楽へ。"

彼らが掲げたその言葉は単なるゲームの音楽を演奏するプロオーケストラにとどまらず、ゲームという枠を越えた音楽へと昇華させるという壮大な宣言であり、立ち上げたばかりの団体にとって途方もない夢に見えた。

 

"Beyond the Game Music"

 

そう銘打たれた公演のタイトルには日本BGMフィルの理想への強い思いとそれを実現する自らの力への信念が現れていた。

  

果たして彼らは「越える」ことができるだろうか。